思わず手に取るパンフレットや、なんとなく印象に残っているお店のロゴなど、みなさんが日常で触れるものにも、実は店主とデザイナーのストーリーが隠れています。
制作の裏側を知ることで、デザインを身近なものだと感じてほしい。そんな願いを込めて、店主とデザイナーの対談を通して、デザインができあがるまでの道のりを深掘りします。
今回は、三重県菰野町で北欧雑貨を扱う「おやまの雑貨店」の店主 あべさんと、エコムクリエーションのデザイナー 本瀬が、おやまの雑貨店のデザイン制作について語ります。
なかなか聞けない制作の秘話。これから開業される方や、制作を検討しているみなさまのヒントになるかもしれません。
CONTENTS
今回登場するメンバー
店主 あべさん
三重県菰野町で北欧雑貨を扱う「おやまの雑貨店」の店主。
完全予約制の店舗でありながら、店主の人柄や、マリメッコ正規販売店ならではの商品ラインナップが話題を呼び多くのファンを得ている。
デザイナー 本瀬
エコムクリエーションのデザイナー。
おやまの雑貨店のロゴ、パンフレットなどのディレクションとデザインを担当。あげき温泉(三重県いなべ市)や、カフェ・ド・アン・ダニエルズ(三重県桑名市)など、人気店のデザイン制作を手掛けている。
地元である三重県菰野町の会社にデザイン制作を依頼したい
開業して、「ロゴや名刺を作りたい」と思ったらまずは制作会社選びです。検索して制作会社を見つけたり、誰かに紹介してもらったり。いろんな方法がありますが、あべさんはどのように制作会社を選んだのでしょうか。
あべ:
なるべくお店の近くにある会社がいいなと思い、検索して探しました。
「菰野 デザイン」で調べたときに、エコムクリエーションのホームページが上のほうに出てきて。まずは町内にデザイン会社があるんだ!という驚きがありましたね(笑)
本瀬:
そうですよね。四日市や桑名にはありそうですけど、エコムクリエーションは菰野に本社があるんです。
あべ:
他の制作会社も調べたんだけど、意外とホームページに載っている情報が少ない会社もあって。
エコムクリエーションは営業時間や、問い合わせ先がはっきり書いてあったので安心できました。問い合わせがしやすかったですね。
あべ:
制作実績として、自分の知っているお店だったり、地元の会社が載っていたのも信頼できました。
家の薪ストーブのことでお世話になっている株式会社チムニーさんとか、桑名のカフェ・ド・アン・ダニエルズさんとか。「えっ、ここのお店のもエコムクリエーションさんが作ってたんだ!」っていう感じで。
さっそくメールフォームから問い合わせて、そのあとで事務所に伺いました。
大体の費用感を聞いたり、まだ開業前で計画や準備が必要な段階だったので、菰野町の商工会を紹介してもらったりしました。商工会さんには、開業や補助金のことなど、いろいろサポートいただきました。
開業準備の中スタートしたデザイン制作
商工会の後押しもあり、あべさんの開業準備が着実に進んでいきます。
そしていよいよ、お店のロゴを制作することに。今ではすっかり以心伝心のあべさんと本瀬ですが、当初の印象はどうだったのでしょうか?
あべ:
まずは顔合わせみたいな感じで会ったよね。本瀬くんの最初の印象は「若いな!」っていう感じ。当時23歳くらいだったよね?
本瀬:
そうそう。あの頃のあべさんはまだお店を始める前で「お店なんて本当にできるかわからない、不安」とおっしゃっていたのを覚えています。初々しい感じでしたよね。
あべ:
まだお店の建物すらできていないのに、デザインの相談なんてできるのかな?て思ったんだけど、商工会さんが先導してくれたから、話を進めやすかったなぁ。
デザイン会社って敷居が高いイメージで緊張しそうだったけど、商工会さんがあいだに入ってくれたので安心できましたね。
10年後も愛されるお店のロゴマークを目指す
ロゴデザインを制作するため、デザイナーの本瀬があべさんに詳しい内容をヒアリングします。当時、本瀬からあべさんにどんな質問をしたのでしょうか。また、あべさんはどのように要望を伝えたのでしょうか。
あべ:
本瀬くんには、「普遍的なデザインにしてほしい。一回見たら忘れられない感じ。素人臭さがなく、プロ目線で売れる雑貨屋さんのロゴをつくってほしい。」って伝えましたね。
デザインについては、それくらいしか伝えていない(笑)。
本瀬:
僕からは、あべさんがお店を始めるにあたっての想いとか、どんな商品を置くかなど、あべさん自身やお店のことを伺いました。
あべさんがたくさん話してくれたおかげで、打ち合わせが終わる頃には「よし、全部わかった!」という感じでしたね。
あべさんって、人気店のデザインについてご自身で調べていて、デザインに対する理解度が高いと思うんです。
だから、あべさんと共通の認識を持ちやすかった。僕が「こうするといいと思う」というのをすぐに納得してくれた感じがします。
あべ:
以前、「開業して10年後に残っている雑貨屋は2割もない」と聞いたことがあって。小売は厳しい世界だと知っていたのでかなり調べました。
やっぱり長く生き残っているお店や、ここには敵わないなというお店は「覚えやすい店名」と「きちんとしたロゴ」がセットになってる。
本瀬:
たしか当時は、横文字の筆記体を崩したようなロゴが流行していて、「可愛いんだけど、数年後も流行っているかはわからないですよ」という話をしましたね。
お互いに納得して、長く好まれるようなデザインを目指すことにしました。
これ以上はない、ロゴデザインの完成
約1ヶ月の制作期間を経て、本瀬からあべさんにデザインの提案をしました。A・Bの2つのデザイン案に対し、あべさんはどう感じたのでしょうか?
あべ:
デザイン提案のときのこと、今でも覚えています。当時の提案資料もまだ持ってる(笑)。
A案を見た瞬間に「絶対これ!」と思いました。でも、エコムクリエーションの皆さんにもどっちがいいか意見を聞きましたね。
たしか何人かはB案がいいって言っていたけど、A案のほうが多かったですね。
本瀬:
A案はおやまの雑貨店から見える山をイメージしています。
ヒアリングのときにあべさんと、「この地域はするどい山じゃなくて、なだらかな山なんだよね。」という話をしたのが印象に残っていて。
山の形は、家紋のように真円を重ねて作りました。
それから、北欧のファブリックデザインも意識しましたね。
マリメッコとか、北欧のデザインは同じ形を並べた連続性のあるテキスタイルが多いと思うんです。おやまの雑貨店のロゴマークも、並べても可愛くなるようにしています。
当時はまだお店ができる前でしたが、取り扱う商品のラインナップを伺っていたので、北欧にあるお店みたいになるんだろうなと想像しました。
でも、ここは日本なので。あまり北欧に偏りすぎず、「北欧」と「日本語の店名」が合わさったときにしっくりくるように気をつかいました。
本瀬:
あべさんにヒアリングしたときに、「子ども向けの雑貨も扱うかもしれない」とおっしゃっていたので、B案は積み木のような、子どもをイメージさせる雰囲気のロゴデザインにしました。
でもこれだけやりとりした今では、提案するとしたら、A案しか出さないですね。
あべ:
結局お店を始めてみたら子ども向けの雑貨はそれほど扱わなかったので、やっぱり今考えてもA案がしっくりきますね。これ以上しっくりくるロゴはないと思う。
紙質やサイズ感にこだわった、名刺とショップカード
ロゴデザインが完成し、名刺やショップカード制作へと展開します。
制作にはどんなこだわりがあったのでしょうか。また、あべさんはできあがった名刺やショップカードをどのように活用したのでしょうか。
あべ:
ショップカードは、シンプルだけど手にとりやすいサイズに仕上げてもらいました。裏面には地図が載っています。
いろんなお店に置いてもらったり、ギフトのラッピングの中に入れたりしています。ギフトにショップカードを入れておくと、プレゼントされた人にもお店を知ってもらえるからいいなと思って。
あべ:
名刺は紙質が良いって、周りに好評でしたよ。
本瀬:
五感紙という、凸凹した紙を提案しましたね。画用紙のような、優しいエンボス加工の紙です。
おやまの雑貨店のロゴは品があるイメージなので、これを普通の紙に載せるとピシッとしすぎてしまうんです。優しい雰囲気のある紙でやわらげたほうが、あべさんの人柄に合うと思って。
名刺のフォントも、ロゴデザインのフォントに合わせて作成しています。
ショップカードと並べても違和感がないですよね。
あべ:
ゴシックで硬すぎない感じが気に入っています。
フォントの細かいところまで調整してくれて、そこまでするんだって思いましたね、当時。
北欧デザインの良さを引き出す写真と、コンセプトを表現したコピーを掲載した、パンフレット
ショップカード制作から約3年が経ったころ、パンフレット制作のご相談をいただきました。
あべさんはなぜパンフレットを作りたいと思ったのでしょうか。また、どんなこだわりがあったのでしょう。
あべ:
もっとお店の商品について知って欲しい、という思いでパンフレットの制作を考えました。
どんなお店なのか知ってもらいたいときに、ショップカードだと情報量が足りません。SNSだとさらっと流し見してしまうし。
パンフレットなら、わざわざ検索しなくても見てもらえるし、空き時間に雑誌を読むように眺めてもらえるかなと思いました。
本瀬:
パンフレット用に写真撮影もしましたね。
最初の打ち合わせの段階から、雑誌みたいに写真をメインにしたパンフレットにしようと話していました。
本瀬:
写真撮影の前に、僕とあべさんで細かく打ち合わせをしました。
どこに何を置いて、どんな構図で撮影するか、実際の撮影現場(あべさん宅)に商品を並べて決めました。
あべ:
商品は、マリメッコが毎年出している柄の食器をメインに用意しました。
でも、売れっ子ばかりではなく、自分が好きな柄のものも入れてもらっています。
本瀬:
あべさんの好きなものと僕の好きなものが似ているので、違和感がなかったですね。
あべ:
写真は思った以上に可愛く仕上げてもらえて嬉しかったです。カメラマンさんにもお世話になりました!
本瀬:
カメラマンには写真の色を鮮やかにするようお願いしました。おかげで北欧デザインの良さを引き出せたと思います。
本瀬:
打ち合わせを通して「日常の中に無理なく北欧を生活に取り入れる」というのがこのパンフレットのテーマになるな、と思いました。
撮影で使用したお皿も、ほとんどあべさんがお家で使っているものなので嘘がないですよね。
料理もあまり豪華になりすぎないよう、日常をイメージできるものにしています。
あべさんが理想とする、北欧を取り入れた暮らしってこんな感じかな、とイメージしてディレクションしました。
おやまの雑貨店のお客さんには理想的、素敵と感じてもらえると思います。
本瀬:
パンフレットには、お店の案内やコンセプトを表現した文章も載せましたね。
あべ:
文章は、本瀬くんに書いてもらいました。
もともと、エコムクリエーションが制作したポスターのキャッチコピーが気に入っていて。
「このコピーは誰が書いてるの?」って本瀬くんに聞いたら「僕ですよ」と言うので、「本瀬くんって文章も書けるんだ!」ってそこで初めて知ったんです。
本瀬:
ロゴ制作のときからあべさんとたくさんお話ししてきたので、想いを汲みとって書かせてもらいました。
あべさんが伝えたいことって「北欧の食器を取り入れたら暮らしが最高になる!」とかじゃないんですよね。
「普段の生活に少しずつ取り入れることで、少し暮らしが豊かになる」というのを文章で伝えられたらと思いました。
あべ:
いきなり自宅の食器を全部マリメッコにするのは無理だと思うし、自分が本当に買いたいもの、本当に欲しいものをちょっとずつ集めるのが長く続ける秘訣だとお客さんにも伝えているんです。
自分の中でちょっと頑張ればできる贅沢、みたいな感覚でお店に来てもらえたら嬉しいです。
クライアントとデザイナーの相互理解が生み出した、愛されるデザイン
お店を始める前に出会ってから、ロゴや名刺、ショップカード、パンフレットの制作と、長いお付き合いをさせていただいています。
エコムクリエーションに制作を依頼してみて、あべさんはどう感じたのでしょうか?
本瀬:
あべさんって自分の好きなものをたくさん話してくれるんです。
企画の段階で、こういう感じにしたいとか、こういうのが好きだとかLINEで送ってくださって。
あべ:
本瀬くんからは「いや、こっちのほうが良いですよ」とかってアドバイスをくれたよね。
結局、「やっぱり本瀬くんが言うのにするわ!」となったりしたね(笑)。
そういえば撮影の後で、商品の鯉のぼりの写真をもう一度撮ってもらいましたね。
やっぱり正面から撮った方が可愛いと思う、と私が言ったのを聞き入れてくださって。
私のことを理解して、意見を取り入れながら提案してくれるので、私にとってはここで作ることのデメリットがないんだよね。
本瀬:
嬉しいお言葉ありがとうございます!
おやまの雑貨店のデザイン制作の裏側、いかがでしたか?
終始、2人の息がぴったりなのが印象的でした。
何度も打ち合わせを重ね、クライアントとデザイナーが理解を深める工程が大切だと感じました。
これから開業される方や、制作を検討されている方の参考になれば嬉しいです。
おやまの雑貨店について
おやまの雑貨店は、三重県菰野町で北欧雑貨を扱う完全予約制のお店です。
営業日やご予約方法はおやまの雑貨店のInstagramをご確認ください。