街で見かけるチラシや、なんとなく手に取ったパンフレット。日常で触れるものの向こう側には、事業者と作り手のストーリーが隠れています。
制作の裏側を知ることで、デザインをもっと身近に感じてほしい。
そんな願いを込め、インタビューを通して、企画が形になるまでの道のりを深掘りします。

今回は、三重県菰野町で開催された登山イベント「THE HIKE(ザ ハイク)」をピックアップ。
単なるチラシ制作にとどまらず、コース選定など企画の根幹から関わった当社の取り組みをご紹介します。
行政や地域とともに歩むプロジェクトの中で、どんな対話があり、どんな想いが形になったのか。
イベント企画や、地域資源の活かし方を変える、ヒントが見つかるかもしれません。
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この記事の登場人物
株式会社エコムクリエーション
代表取締役 北住 尚己(きたずみ なおき)
アートディレクター兼デザイナーとして活動する傍ら「菰野ヒルクライムチャレンジin鈴鹿ライン」や「鈴鹿山麓かもしかハーフマラソン」、「ツアー・オブ・ジャパン いなべステージ」など数々のアウトドアスポーツイベントに携わる。
企画立案からPR、広報物のデザインまで、地域資源を活かした体験づくりを追求している。
「山を仕事にする」自然とクリエイティブを繋ぐ、代表の想い
三重県菰野町。鈴鹿山脈の麓で、自然とクリエイティブを掛け合わせた活動を続けるエコムクリエーションの代表取締役 北住尚己。
町からの信頼も厚く、数々のイベントを手がける彼に、山との出会いを聞きました。

北住:
僕は菰野町で育って、幼少期から山は身近な存在でした。
でも、本格的に登山を始めたのは結婚してから。
もともとマウンテンバイクをやっていて、妻が山に行きたいと言い出したので「じゃあ、バイクなしで登ってみようか」と二人で始めたのが最初でした。
親会社(ECCOM)と出会い、「デザインも山もできるから入れてくれ!」と飛び込んだのが今の道に繋がっています。
現在は自転車ロードレースのチラシ制作から、山上のガイドツアーまで、現場と制作の両面からアウトドアの魅力を発信しています。
「THE HIKE」山のぼりの初心者にも鈴鹿山脈の魅力を伝えたい

北住:
「THE HIKE」は、鈴鹿セブンマウンテン制定60周年を機に、町民の方々に地元の山の魅力を知ってもらうために始まったイベントです。
コンセプトは、初心者でも安心して参加できる登山イベント。山登りに興味はあるけれど、一人では不安という方をメインターゲットに、鈴鹿の山々を五感で楽しんでもらうことを目的としています。
菰野町だけでなく、観光協会や隣接するいなべ市とも連携。行政が手を取り合い、このエリアの自然を盛り上げるプロジェクトになりました。
町役場の担当者の熱意と、現場が抱える課題

イベントの立ち上げにあたり、菰野町役場コミュニティ振興課から北住に声がかかりました。それは、彼がこれまで築いてきた地域との繋がりと、イベント運営の実績からでした。
北住:
役場のみなさんも『山は素敵だ』という感覚は持っている。
けれど、山についての知識や経験があるわけではありません。担当者の方も、ほとんど山に登ったことがない、という状況でした。
だからこそ、どのコースなら初心者が安全に楽しめるのか、という実務的な部分から相談を受けました。

期待されたのは、専門知識とクリエイティブの融合
北住:
役場側の事情も踏まえつつ、山とイベントを理解したガイドとして、行政と民間のちょうど中間の視点でイベントをプロデュースすることが僕の役割でした。
登山コースの選定や安全管理のアドバイスもしましたが、デザイナーとしてイベント全体の「見せ方」も考えていました。
役場っぽくない、若い人にも響くような見せ方を期待されていたと感じます。

ただ登るだけではない、登山を通して地域を楽しむ
「THE HIKE」は単なる登山ではなく、歴史や食、温泉など地域の魅力を詰め込んだツアーです。
ロゴ、しおり、グッズなど、さまざまなデザインが加わることで、より心に残る体験になります。
北住:
山についての歴史的な文献や、その季節に見られる植物を掲載した『旅のしおり』を制作しました。当日使うだけでなく、家で見返して思い出に浸れる一冊です。
また、地元の温泉宿がつくったお弁当にはTHE HIKEオリジナルの帯をつけたり、参加賞は登山者がもらって嬉しいものを制作しました。
そういった、細かなものを提案し作ることが、イベントの付加価値になりました。
地域に愛されるイベントを育てるには、「また参加したい」と思わせる工夫が必要です。


北住:
登山イベントはどうしても高齢層に寄りがちですが、40代・50代、そしてさらに若い世代にも興味を持ってほしくて、チラシはあえて「役場らしくない」インパクトのあるデザインを心がけました。
初回は少しやりすぎたかな?と思うくらい攻めましたが(笑)、そのおかげか、今は募集開始後すぐに枠が埋まるほどの反響をいただいています。


70代の初挑戦から、山好きのリピーターまで
北住:
「70歳を超えて初めての登山だけど、この機会に挑戦したい」という年配の方がいて。そういう方の想いに触れると、絶対に登らせてあげたい!と力が入りますね。
「山登りは2、3回しかやったことなかったけど、楽しかった!」という声をいただけるとやっぱり嬉しい。
一方で、北アルプスを登るようなベテランの方も「このイベントの雰囲気が面白いから」と参加してくださる。
毎回、県山岳連盟の方やボランティアガイドの方々と連携して、みんなが笑顔で参加できる場を作っています。

これからのアウトドアとまちづくり
最後に、これからの展望について伺いました。

北住:
「山頂を目指すことだけが登山じゃない」ということを伝えていきたいですね。
中腹の景色のいい場所でゆっくりおにぎりを食べたり、足元の生き物の痕跡(うんちや足跡)から動物の暮らしを想像したり。
山にある物語や生き物、歴史をクリエイティブの力で分かりやすく伝える。
そんな「新しい山の楽しみ方」を、これからも提案していきたいです。

北住:
行政や観光協会、地域のお店や会社が一緒になってやることで、できることは広がります。
デザイナーでありながら、地域に深く携わってきた僕だからこそ『まちづくり』や『観光』という視点から、人と自然が関わる面白さを形にできると思っています。
地域の魅力を再発見し、それをデザインの力で誰かに届ける。そのサイクルをこれからも作り続けていきたいですね。
「THE HIKE」というイベントの裏側には、地域へのリスペクトと山を楽しんでほしいという純粋な想いが詰まっています。
行政とクリエイターが手を取り合うことで、地域の資源がこんなにも輝きを増す。その好例を、これからも三重県菰野町から発信していきます。
【写真】西尾尚也(BEMO)※一部 当社撮影
エコムクリエーションについて

株式会社エコムクリエーションは、三重県菰野町を拠点とした、デザイン・Webサイトの制作会社です。
環境保全活動や自然公園の管理を行うNPO法人ECCOMを母体とし、山や川などの自然観光資源を活かしたPRやイベントの企画、それに伴う広報物の制作を得意としています。
〒510-1323
三重県三重郡菰野町小島4059
株式会社エコムクリエーション


