歴史×観光×デザイン。三重県菰野町で実現した、“伝わる”動画と看板づくりの裏側

こんにちは!三重県菰野町に拠点を置くデザイン制作会社、エコムクリエーションです。

さて今回のブログ記事では、当社がお手伝いさせていただいた、菰野町の看板・動画制作の裏側をご紹介します。

はじめに-地域の宝を未来へつなぐプロジェクト

2024年、三重県菰野町が推進する「菰野町地域の宝デジタル活用事業」として、動画・看板制作が始動しました。
この取り組みは、菰野町の偉人 八重姫(やえひめ)を媒体として、地域の歴史や名所をデジタル技術で伝える新たな試みです。

メディアに向けたリリースイベントの様子

八重姫とは?-菰野町の歴史を彩る人物

八重姫は、戦国武将・織田信長の孫娘であり、初代菰野藩主・土方雄氏(ひじかた かつうじ)に嫁いだ人物です。
その後、三代にわたって菰野藩を支えたと伝えられています。

2023年には、八重姫の生涯を描いた漫画『八重姫伝』が刊行され、多くの人が菰野町の歴史に触れるきっかけとなりました。

気高くもおてんばな八重姫のキャラクターは共感を呼び、町内の冊子や掲示物などにもイラストが採用されるなど、町民にとってもますます身近な存在となりつつあります。

漫画『八重姫伝』に登場する八重姫

プロジェクトの概要-デジタルでつなぐ郷土歴史と観光

このプロジェクトは、菰野町が、国の補助事業「デジタル田園都市国家構想に基づく交付金」を活用し、より多くの人に町の歴史や文化を知ってもらうきっかけをつくることを目的としています。

具体的には、文化財や名所を紹介する動画を作り、それに連動した看板を各所に設置。看板に掲載された二次元コードをスマートフォンで読み込むと、動画が再生され、現地にいながら解説を視聴できるというコンテンツを制作します。

当社はこのプロジェクトにおいて、動画と看板の制作を担当しています。

この記事を読むことで得られること

  • 動画や看板制作の流れを知ることができます。
  • エコムクリエーションの制作に対する考え方を知ることができます。
  • デザイン制作を依頼する際のヒントを得ることができます。
  • 郷土歴史と観光、DXを絡めた、菰野町の取り組みを知ることができます。

こんな人におすすめ

  • 動画制作を検討している方
  • 看板などの、デザイン制作を検討している方
  • 地域観光を促進するためのヒントが欲しい方
  • 菰野町の歴史に興味がある方

ぜひ最後までお読みください!

制作の裏側-動画と看板ができるまで

動画制作

リサーチとプロット作成

動画制作は、プロット(構成案)作りから始まります。
菰野町が選定した10ヶ所以上の文化財・名所について、プロットを作成しました。

まずは、学芸員さんから大まかな構成や原案を記したプロットをいただき、菰野町の担当者と当社が協力して、編集やアイデア出しを行いました。

いちばん右が学芸員の西山さん。プロジェクト全体を通してご協力いただきました。

プロジェクトを通して、菰野町や当社が重要視したのは「歴史や文化財といった、堅くて難しそうなイメージのあるものを、どうやって、子どもから大人、観光客まで多くの方に楽しんでもらうか」です。

そこで、郷土資料を何冊も読み、理解を深めた上で、各題材について「子どもたちや大人に伝えたいこと」「価値」「興味を惹くフレーズ」をまとめていきました。

例えば、国指定天然記念物「田光のシデコブシ及び湿地植物群落」
シデコブシを初めとした、東海地方固有の植物の群生地帯です。
この植物群落の解説動画のプロットは、下記のようにまとめました。

・シデコブシは数百万年前から残存してきた植物の生き残り
・発見され、文化財に指定されたのは実は最近のこと
・明治時代には棚田だったので、里山として管理されていた
・もし人の手が入っていなければ、他の木々に負けてしまい、貴重な植物は残らなかった
・この植物群落は、人と自然の共存のシンボルといえる

シデコブシの花

シデコブシの美しさや、貴重な植物の群落であることは、重要な情報です。
そこに、歴史の流れや意外なストーリーを織り込むことで、地元の人でも新たな発見がある構成にしました。

絵コンテの作成

プロットが確定したら、次は絵コンテを作成します。
絵コンテとは、動画の画面構成を示すものです。各シーンの絵や登場人物のセリフ、動きを、大まかに描いてまとめます。

絵コンテ

絵コンテを作成したら、史実と相違がないか、重要な情報が描かれているかを、学芸員さんに入念に確認いただきました。
その上で、歴史教材としての正確さと、動画としてのシーンや構成の面白さを追求し、修正を重ね、絵コンテを完成させました。

原稿作成

絵コンテをもとに、ナレーションの原稿を作成します。収録のときに読みやすいよう、縦書きでまとめていきます。
八重姫が文化財を解説する動画なので、漫画『八重姫伝』に登場する八重姫のイメージをそのままに、語りかけるような口調を意識しました。

ナレーション原稿

ナレーション収録

次に、ナレーションを作成します。
制作の早い段階から、八重姫のイメージに合致する声優の候補を探しました。
最終的に、俳優の高橋ゆなさんをナレーターとして採用。織田信長の正室 濃姫にちなんだ、6代目濃姫オーディション準グランプリに選ばれたこともあり、織田家の血を継ぐ八重姫らしい、力強く明るい声でナレーションを担当いただきました。

ナレーション収録の様子

収録では、地元の人が聞いても違和感のない、菰野弁のイントネーションにこだわりました。
例えば、動画に登場する「禅林寺(ぜんりんじ)」のアクセントは「ぜ」なのか、「り」なのか、収録の合間に禅林寺のある菰野町下村地区の方に電話して、直接確認する一幕もありました。
また、専門家に同席いただき、地名や名称などの読み方が難しい内容も、正確に収録しています。

ビデオコンテの作成

ナレーションが完成したら、ビデオコンテを作成します。
ビデオコンテとは、収録したナレーションを絵コンテに組み合わせたものです。

ナレーションに合わせて絵コンテの画像を配置していくと、たとえば冒頭のシーンは5秒、次のシーンは15秒、というように各シーンの長さが決まっていきます。

動画撮影

各シーンの長さが決まったら、撮影に入ります。
まずは撮影リストを作成します。撮影リストは、撮影する日時、場所、カット内容、などをまとめた表です。

作成するにあたって、撮影場所への許可申請や撮影日時の調整など、事前のスケジューリングにも工夫を凝らしました。
地域の方々のご協力のおかげで、全7日間で効率よく撮影が行えるよう、工程を組むことができました。

撮影リスト


当日は、撮影リストに沿って動画撮影を進めていきました。

都度、ビデオコンテやリストを確認しながら、一つひとつのシーンを丁寧に収めます。

思ったように撮影できない場所があったり、天候に恵まれなかったりと、現場ならではのアクシデントもいくつかありましたが、チームで相談して柔軟に対応し、無事すべてのシーンの撮影を終えました。


アニメーション制作

八重姫のイラストは、『八重姫伝』を描いた漫画家 服部千里さんに作画をお願いしました。絵コンテに合わせて、さまざまな表情の八重姫を描き下ろしていただきました。

「照れる」「驚く」などさまざまな表情の八重姫のイラスト

また、映像では表現しきれない場面にも、イラストを採用しました。

映像とイラストを組み合わせることで、やわらかく印象に残る、伝わりやすいコンテンツに仕上がっています。

関ヶ原の合戦を表現したイラスト
下村地区から千草地区への移動を表現したイラスト

ナレーションと組み合わせて編集、動画の完成!

最後に、撮影した動画や画像にナレーションを組み合わせ、編集作業を行います。

動画の流れや、シーンが変わるタイミングを丁寧に調整しながら、より伝わりやすく、テンポの良い動画になるよう仕上げていきます。

編集後は、社内での確認に加え、菰野町役場の担当者や学芸員さんにも確認いただきました。
専門的な視点と地域の目線を取り入れながら、細部の調整を重ね、ようやく動画の完成です。

看板デザイン

掲載する内容をまとめる

動画制作と同時に、看板のデザインを進めました。
まずは、看板に載せる文章をまとめるところからスタート。歴史的な情報を正確に伝えながらも、難しい表現には読み仮名をふり、訪れた人が誰でも楽しめるよう心がけます。

読み仮名をふる箇所などを書き込んだメモ

文章が決まったら、画像を絞り込みます。資料や文献を参考にしながら、限られたスペースの中で、どの画像を載せれば伝わるかをじっくりと検討。

また、動画をYouTubeにアップロードし、それぞれの看板に対応した二次元コードを作成しました。

レイアウトする

次に、文章・画像・二次元コード・八重姫のイラスト・菰野町のロゴなど、さまざまな要素をどう配置するか、調整を重ねました。

看板はそれぞれ文章量が異なり、文章が長いものも短いものもあります。どの看板も全体のバランスが崩れないよう、読みやすさと見やすさを意識してレイアウトしました。

また、景観を損なわないよう、色合いは落ち着いたトーンでまとめました。

できあがった看板デザイン

動画制作と同様に、完成前には社内でのチェックに加えて、菰野町役場のご担当者や学芸員さんにも確認いただき、関係者全員でつくりあげていきました。

看板の完成!

ついに完成した看板は、文化財や名所など、町内の各所に設置されました。

それぞれの場所で、解説を読みながら動画も一緒に楽しめる、新しい歴史体験の場になっています。

菰野町役場や、道の駅に設置された看板

町民の声と制作チームの想い

企画から看板の完成まで、約9ヶ月にわたるプロジェクトとなりました。

現地で看板を見て、動画を体験した町民からは、「歴史がぐっと身近に感じられるようになった」と嬉しい声が寄せられています。

また、菰野町役場の職員の方からは、「職員でも知らないような内容がたくさん紹介されていて、町のことをより深く知れた」「現地で動画を観てもらえるので、観光地の案内がしやすくなった」などのお声もいただきました。

制作チームにとっても、改めて地域の魅力に触れ、再発見できた貴重なプロジェクトとなりました。

ぜひたくさんの方に、現地を訪れ、楽しんでいただきたいです。

エコムクリエーションの取り組み

エコムクリエーションは、「山と自然とクリエイティビティを愛する」を合言葉に、里山やそこに暮らす人々の営みに寄り添うデザイン制作をめざしています。

今回のプロジェクトを通して、私たちのデザインが地域の活性化に少しでも役立てれば嬉しいです。

また、チラシやパンフレットなどのグラフィックデザイン、ホームページや通販サイトなどのWeb制作も幅広く行っています。

興味をお持ちいただけましたら、ぜひ下記の制作実績もご覧ください。

制作実績(自治体・外郭団体など)

菰野町

一般社団法人菰野町観光協会

一般社団法人グリーンクリエイティブいなべ

湯の山温泉協会

制作実績一覧

エコムクリエーションの制作実績

漫画『八重姫伝』について

漫画『八重姫伝』は、カモシカ商店(オンラインショップ)で購入できます。